おばあちゃんのアドバイス:幸せな結婚の秘訣
著者:前田洋子
編集者:佐藤和恵
「これでもうお仕舞だ。もう君の顔なんて見たくもない! 別れよう!」
貴女のご主人が突然こんな事を言って家を出て行ってしまう。一度は心の底から愛した貴女のご主人が。逆に、貴女自身がそんな宣言をしてご主人の傍から離れていく…。 こんな事は結婚していれば誰にでも起こる可能性はありますよね。でもここでゆっくりと深呼吸をして、何故こんな事になってしまうのか、どうしたらこんな出来事を避けられるのか一緒に考えてみませんか?
もし貴女がすでに結婚しているのなら、晴々と式を挙げたあの日の事を思い出してください。そして心から祝福してくれた親戚や友達に囲まれてお互いに交わした言葉を。 例えば、
「私たち二人は、本日皆様方の前で、結婚の誓いをいたします。これから先、いかなる事があっても心を一つにし、互いに助け合い、明るく幸せな家庭を築くことをここに誓います。」等々。
そんな誓いの言葉はもうとっくに忘れてしまいましたか?
最近では離婚することが意外と簡単にできるようになりました。おばあちゃんはその原因の一つは、相手を良く知らないまま、そして結婚するためにはどれだけ二人の努力が必要なのかという事をあまり深く理解できないまま契りを結ぶ若者が多いからではと思っています。要するに、あせって結婚し、夢だけを託して式を挙げその結果、結婚した時と同じように意図も簡単に離婚するようになったのかもしれないと。
おばあちゃんのアドバイスに触れる前に、ここで少しおばあちゃん自身の事について触れたいと思います。おばあちゃんは若い頃にカナダ人のご主人とヨーロッパで逢い、その後すぐ結婚しました。でも結婚当初は、二人の結婚生活がこんなにも長く続くとは夢にも思っていませんでした。なぜなら、おばあちゃんが結婚した頃はカナダ政府がやっと不倫以外の離婚を認めたばかりで、まだ離婚をしている人達をあまりみかけませんでしたが、おばあちゃんみたいに国際結婚した場合の離婚率は非常に高く50%以上と聞いていたからです。
そんな確率と闘うため、おばあちゃん達は時には励ましあい、時には傷つけたりしながら、少しでも良い結婚生活ができるよう毎日努力してきました。その努力が実ったせいでしょうか、おばあちゃん達はもう少しで金婚式を迎えます。ですから結婚についてなら及ばずながら若い人達よりもっと理解していると自負しています。その長い経験から生み出したおばあちゃん独特の「結婚の秘訣」を、現在結婚しようとしている人達や、もう何年かの結婚生活を経て、今離婚を考えている人達と分かち合えたらと心から願っているのです。
おばあちゃんはまず、結婚を長く続けるための秘訣が一般的にどう思われているかという事を考えてみました。すぐ頭に浮かんできたのは「コミュニケーション」、「愛情」、「忍耐」、「尊敬」、「信頼」、そして「相手を許す心」という言葉です。でもそういう言葉だけではあまり漠然としていて、毎日どんな努力をしたらいいのだろうかなんてことは見当もつきません。ですからここでは、幸せな結婚を続ける為におばあちゃん夫婦が実際にどんな事を続けてきたかという事を書き留めてみたいと思います。 もちろんカナダに住んでいるおばあちゃん達と日本に住んでいる方達とでは何かと違いはあるでしょうけれど、根本的には同じだとおばあちゃんは信じています。
おばあちゃんによると結婚してからお互いに特に気を付けてきたことはこんな事だそうです。
1. コミュニケーション(会話)
愛情と同じくらいに結婚生活に必要と思えるのは、やはりコミュニケーションだとおばあちゃんは信じています。
どうしてかというと、「心から愛し合っていても会話が少なくなることが別れるきっかけにもなる」と離婚の経験のある人達から聞いているからです。その原因は多種多様みたいです。まずおばあちゃんが最初に思い浮かべたのは、毎日忙し過ぎて二人だけで会話する時間がないという事かな? それから相手が家族の意見を重要視せず、こちらの言いたいことを真剣に聞いてくれない。要するに自己主義の相手と結婚してしまったという事でしょう。もう一つおばあちゃんが思い浮かべるのはお互いに秘密を持ち始めて口が堅くなり、徐々に二人の会話が少なくなってきてしまった事等々。
おばあちゃんが日本に住んでいた頃に聞いた話では、ご主人の仕事が忙しいので帰ってくるのは深夜になる事が多くなり、それが会話の減少の始まりだなんていう例がありました。その反面、奥さんの方は子育てに追われ一日があっという間に過ぎてしまい、夜遅く帰ってくるご主人との会話を辛抱強く聞いている余裕が無くなると。
おばあちゃんの住んでいるカナダでは、日本ほど仕事に縛られ残業をする事は余り無いのですが、その他の問題が有ります。例えば、子供たちが少し大きくなると男の子の場合はホッケー、女の子の場合はダンスレッスンなど毎晩交代で連れて行かなくてはならない。子供が多ければ多いほど、その回数も多く、夕飯も一緒に食べる事のできない擦れ違い夫婦がとても多いのが現状です。そうすると夫婦二人だけで過ごす時間が少なくなり、会話が殆んど無くなります。
理由は何にしろ、結婚してからあまり会話をしないことは一番危険だとおばあちゃんは思っています。どうしてかというと、会話が無ければ相手が何を考えているか判らない。判らなければ、自分なりに相手の周りで何が起きているのか想像して、何事も悪い方に考える。そうすると初めは小さかった問題がいつの間にか大事になり、やっと話す機会が有る頃には取り返しのつかない事になってしまう。
ですからコミュニケーションはとても大事なことなのです。
おばあちゃんの場合にもそんな日々がありました。日中ご主人が大学に通い、おばあちゃんは子育てをしながらウエイトレスとして朝晩働いていた時期で、お互いにとても忙しい毎日を過ごしていた時の事です。その頃は、あまり言葉を交わす暇も有りませんでした。そんな生活をしている間はコミュニケーションの大切さを知らず、お互いを誤解しあっておばあちゃん達は随分と口喧嘩もしました。
でも幸いに、その後コミュニケーションの大切さにおばあちゃん夫婦は若いうちに気が付き、どんなに忙しくても毎週一度はデートすることにしました。デートと言っても、あの頃は子育てするのが精一杯で時間も余り無かったし、レストランやバーに行くだけのお金も無かったので、時々お茶を一緒に飲みに行ったり、二人で散歩に出かけたりしただけです。でもそれは二人だけの時間。おばあちゃん達がそんな時間を大切にするようになってからは、あまり口喧嘩をする事も無くなりました。頻繁に会話をする事でお互いの信頼を高めることができたのです。
2.「お願いします Please」と「有難う Thank you」と「御免なさい I’m sorry」
(コミュニケーション)
結婚した後も、お互いに尊敬の意を表す言葉遣いをする事はとても大切だとおばあちゃんは思っています。例えば、相手に何かを頼みたいときは 「お願いします Please」そして、その頼みを聞いてくれた時は、「有難う Thank you」という言葉を必ず言う事です。
結婚歴が長くなればなるほど、「お互いを分かり合っている。だから、丁寧に物事を頼む必要も感謝の気持ちも伝えることも必要ではない。」と言う人達をおばあちゃんは沢山見てきました。時々はしぐさだけでお互いの気持ちを伝えようとする日本人の夫婦も。でもただ単に相手に頷くとかとか、または「はい」という言葉で二人の会話が終ってしまうと、上辺だけではお互いの意思が通じている様に見えますが、本当にお互いを理解しているかどうかは疑問です。それに物事を頼まれる方としては余り気持ちの良い物では無いのでは、とおばあちゃんは思っています。ですから、それを敢え(あえ)て、「何々して頂けませんか? お願いします。」と云い、そして相手がその頼みを聞いてくれたら、必ず「有難う。」と一言云う事がお互いを尊敬しあっている証拠で、それが愛情に繋がるのだとおばあちゃんは信じています。
これは結婚後、おばあちゃんのご主人がずっと家族に言い続けてきた事です。 何故なら、何か頼むときに「お願いしますPlease」と言わないと、頼んでいるのではなく、命令しているように聞こえるからです。その反面、何かしてあげた時「ありがとう Thank you」と相手が言ってくれたら、次に何か頼まれた時にも快くしてあげようと思うようになるのが人間の本能です。
そして相手を傷つけたり、悪いことをしたりした時に、「御免なさい I’m sorry」という事もとても大切です。 謝るという事は弱い人間がする事だなんていう人も世の中には居るようですが、おばあちゃんはそう言う風に言う人の方が本当は弱い人間なのではとないかと思っています。 どうしてかというと、自分の間違いをきちんと謝るのは、本当はとても勇気のいる事ですから。
そういう訳で今でもおばあちゃん夫婦は、これらの3つの言葉を日常に頻繁に使っています。例えばおばあちゃんが食事を作るとご主人は必ず「有難う、おいしかった。」と言ってくれます。そして何かを頼みたいときは お互いに「お願いします Please」と言い、傷つけたら「御免なさい I’m sorry」と。もう何十年も結婚しているのだからそんな事は必要がないと云う方も居るでしょうが、こんな小さな日常の思いやりが幸せな結婚生活に導くのだとおばあちゃんは信じています。 そしてこのルールを結婚当初から、自分もお手本になり、取り入れてくれたご主人にとても感謝しています。
3. 3度のルール(コミュニケーション)
おばあちゃん自身がコミュニケーションの一部としてずっと続けている事が 「3度のルール」です。このルールは相手が繰り返し不可解な行動をしたり傷つけるような言葉を言ったりした時に使うルールです。具体的にどういう事かと言うと、一度目に誰かが貴方を傷つけるような事をしたら、まず勘違いだったのかもしれないと思うようにし、2度目に起きたら、相手が気分でも悪いか、たまたまあまり考えずに行動したのだろうと思うのです。でも3度目に同じ不可解な事をされたら、相手が意図をもってその行動をしていると認識して、問題が大きくならないうちに話し合って解決することです。これがおばあちゃんの言う「3度のルール」。
それなら何故、問題が起きる度に文句を言うのをおばあちゃんが勧めないかと言うと、その度にいちいち文句を言っていたら、相手にはただの愚痴に聞こえるからです。そしてそれを愚痴だと思えば、文句を言った効果も全く無いからだとおばあちゃんは思っています。ですから「最初に不可解なことが起きたら、まずは我慢する。2度目に起きたら、多分相手の気分でも悪いので同じことが続いたのだろうと思う。でも3度起きたら必ず相手にその不可解な行動がなんであるか伝える」こと。そうしないと自分が辛くなりますからね。とにかく、少なくとも最初二回は我慢することがおばあちゃんのモットーです。
昔、こんな事が有りました。ご主人が大学に行っている間、おばあちゃんがウエイトレスとして働いていた時の事です。その頃子供達はまだ小さくて、生計を立てるためおばあちゃんが夜レストランで働き、その間はご主人が子供達の面倒を見てくれていました。ある晩夜中の12時過ぎにおばあちゃんが仕事を終え家族がもう眠っている家に帰ってくると、玄関から居間迄、おもちゃや衣類が沢山散らかっていたのです。おばあちゃんはおもちゃの一つ一つを拾いながら、「こんなに頑張って家族のために働いているのに、家に帰ってきてからも部屋の片づけなんかしたく無い」、と情けなくなりました。そして、仕事からの疲れのせいかとても苛立ちました。そしてこんなことが続けば、自分が精神的に続かないと思ったのです。
でもその時は初めて起きた事だったので、ご主人がたまたま片づけるのを忘れたのだろうと思い、おばあちゃんは何も言いませんでした。それから少したって2度目に同じことがあり、そして3度目に同じことが起きておばあちゃんが苛立った時、ご主人に向かって、優しく、でもはっきり言いました。
「夜遅く仕事から帰ってきた後は、私はとても疲れていて小さな事でも気にさわるの。最近仕事から疲れて夜遅く帰ってきた時に家の中がおもちゃや衣類でとても散らかっていて、それを何回か私が片付けなければなかったの。貴方も子供たちの面倒で大変でしょうけど、お願いですから私が仕事から帰って来る迄には家を多少片づけてくれないかしら。」
ご主人はそれを聞いて初めは驚いたような顔をしていました。でもその後は、おばあちゃんが仕事から返ってくる前に、家の中をきちんと片付けてづけてくれる様になりました。そういう訳でおばあちゃんは、夜勤の後、おもちゃや衣類などを片付ける事は2度と有りませんでした。
4. 「3度のルール」の後のおばあちゃんの対策法 (コミュニケーション)
ここでは前に触れた「3度のルール」で不可解な事を3度続けた相手に、その事を伝える方法を皆さんと分かち合いたいと思います。この方法はおばあちゃんが昔働いていた会社で参加した「問題対応策」というコースに基づいたものです。
一番大切なのは、自分の気持ちを伝えるときに絶対に相手を責めない事だそうです。たとえ相手が悪いと知っていても。ではどういう風に相手に自分の不満を伝えるかというと、第一には、自分が相手の行動によって、どんなに悲しい思いをしているか、苛立っているか、または傷付いているかを伝える事です。
第二に相手のどんな行動が自分をそういう気持ちにさせているのかという事を説明する事だそうです。そうすれば、相手は自分が責められていないので、初めは怒りを感じても、真剣にどうしたらその問題を解決するかを一緒に考えてくれるでしょう。
ですからおばあちゃんが夜仕事から帰ってくる前に家を片付けて欲しいと伝えた時も、まだ会社のコースをとるもっと前でしたが、幸い彼女はご主人を責めませんでした。ただ単に、事実を述べ、その事実がおばあちゃんにどんな影響を与えたかを言っただけだったのです。
会社で習った問題対応策のルールの中に一つだけおばあちゃんが家ではしない事が一つあります。それは、問題が起きた直後、なるたけ早く相手が忘れないうちに話すという事です。もし会社で問題が起きた場合は会社の損得にも繋がるので早く問題を解決した方が良いと思うのですが、夫婦や家族の間ではやはり、お互いを尊重して3度のルールを使った方が良いとおばあちゃんは思っているからです。
5). 愛情を時々動作や言葉で示すこと。そして相手にいつも笑顔で接すること。
要するに自分に対応して欲しい様に相手に接すること。(愛情)
愛情を相手に示すことは夫婦の間だけに大切なものでは無いとおばあちゃんは思っています。子供達や孫達、まして他人に対してまでもいつも笑顔で愛情をもって接すると、その笑顔と愛情が必ず戻ってきます。
これは特に男性に多いのだと思いますが、「毎日愛情を示さなくても一緒に住んでいるという事自体が愛情を持っている証だ。どうしていちいち相手に愛情を示さなければいけないんだ。」なんて言う方が世の中には沢山います。でも女性や子供達は、そして人間誰もが、時々言葉や行動で愛情を示して貰えないと、不安になる可能性があるとおばあちゃんは思っています。どうしてかと言うと、私たち人間の日常の生活の中で何も変わらないという事は殆んど無いし、ある時は一瞬で変わってしまうとおばあちゃんは信じているからです。
容姿の変化についてもそうです。男性は年を取るにつれ、髪もロマンスグレイで魅力が増したなんて言われる事も有るのですが、残念ながら女性が年を取ると世間ではあまり良く受け止めてくれません。ですから女性は顔に皺が増え始めたり、白髪が増えてきたり、体重が増えたりすると、日に日に自分の容姿に対して自信を失います。そういう変化に毎日闘わなければならないのです。ですからそんな時ほど、もっと夫の愛情が必要になってくるのではないのかとおばあちゃんは思っています。
言葉でなくても愛情を示し続ける方法をおばあちゃんが何処かで聞いたことが有ります。お互いを30秒間ハグ〈抱擁〉するということです。ハグはお互いの愛情を示すのにとても大事な事だそうです。特に夫婦や子供達の間では。30秒続けると特に効果があるとか。もし愛情が無かったらそんなに長い間抱擁できないのが人間の本能みたいです。ですから、本当に長い間結婚していたかったら、時々30秒以上ハグすることをお勧めするとおばあちゃんは言っています。おばあちゃん達も家族が毎週食事に来た後、別れを告げるときは必ず一人一人ハグする事にしています。特に孫達にはしっかりとハグしておばあちゃん達の愛情を示します。
おばあちゃんとご主人も時々何気なく、「30秒ハグ今から初めま-す。」なんて言って、笑いながら部屋の真ん中で抱擁することがしばしば有るという事です。
6) 小さな事でも良いから相手を誉めること。人は称賛を受けると自信を持ち、
もっと良くなろうと努力する。そして貶(けな)されると、
自信を無くして何をしてもできなくなる傾向があります。(愛情)
おばあちゃん達に2人目の子供が生まれた頃、ご主人は建築会社で肉体労働をしていました。カナダでの冬はマイナス20度になる事が多く、外で仕事をするご主人の健康がおばあちゃんはとても心配でした。それでお互いに話し合った結果ご主人は大学に行く事を決心したのです。その頃からです、お互いを誉め始めたのは。
「僕には大学を卒業するのは無理かもしれない。」
と自分の能力を疑っていたご主人を、貴方ならできる、と繰り返しおばあちゃんは励まし続け、彼は4年後に無事に先生の資格を取りました。
その間生活を支えるためにウエイトレス、そしてその後石油会社の秘書として働いていたおばあちゃんですが、ご主人が卒業した後、彼女自身が大学に行くことになりました、ご主人はその時、
「お前ならできる。」
と今度はおばあちゃんを励ましてくれました。石油会社で秘書として働き、子供を育てながらの通学だったので9年掛かりましたが、おばあちゃんは無事に卒業出来ました。初めは英語も完全に理解していた訳でもなく、おばあちゃんにとっては遠く長い道でした。でもご主人の励ましのお陰でおばあちゃんはどうにか目的を果たすことができたのです。
それからもご主人は、おばあちゃんが何をしても励ましてくれただけでは無く、褒めてくれたりもしたので今のおばあちゃんが在るのです。おばあちゃんも、その後もご主人にいつもこんな風に言って励まし続けました。
「貴方自身を見てごらんなさい。貴方は能力も知識もあるし頑張り屋です。その上、スーツを着たらどこかの会社の社長さんに見えるわ。貴方ならきっとできる。私は貴方を信じています。」
そんな言葉を何度も聞いて仕事に携わり頑張ったご主人は、いつしか金融会社でディレクターにまで昇格しました。鉄工場で有名なハミルトンで育ち、高校を出たあとはその工場の一つで働くことだけを期待されていた彼がです。
励ましたり誉めたりすることは結婚生活には無くてはならない事だとおばあちゃんは信じています。そして子供を育てる時にも。
7. 他人の前では絶対に相手の悪口を言ったり、責めたり、辱めたりしないこと。(愛情)
これは夫婦関係だけではなく、どんな人間関係であってもお互い関係を良く保つ為にはとても大切な事だとおばあちゃんは思っています。そして、たとえ冗談であっても絶対にやってはいけない事だとおばあちゃんは強調しています。
何故かというと、人間は男女や年齢に問わず、自分の失敗したことや恥ずかしい出来事を他人に知られる事はとても嫌なものです。まして自分の一番信頼している人がそれを他人に話している場合は特に。ですから他の人がそんな会話を始めても、お互いにかばってあげるのが夫婦愛、家族愛だとおばあちゃんは思っています。
もしどうしても相手の態度が気になるなら、周りの人が居る時でなく、二人で席を外してからか,家に帰ってから優しく言ってあげることがおばあちゃん達の流儀だそうです。
でも一度だけ、おばあちゃん自身が間違いを起こしてしまった事があります。
嫁の実家で夕食会があった夜です。ご主人はとても話し上手で、家族で集まった時に会話を時々独占する傾向があります。あまり知らない人達に囲まれて気が張っているときは特にそんな傾向があるとの事。その夕食会では嫁の親戚もかなり参加していて、ご主人は知らない人達に囲まれて食事をする羽目になりました。 多少気が張っていた他の人達の雰囲気を和らげようと、ご主人はいつもの様に面白い話しを食事中に始めたそうです。そのお陰で皆の顔もほころび、食卓の雰囲気も和らいできました。そして周りの人がやっと勇気を出し会話に加わろうとしたのですが、何時まで経ってもご主人ばかり話していて、嫁の親戚の方達は会話に入るすべも無くなってしまったのです。普段はあまり口を挟まないおばあちゃんですが、この時ばかりは見るに見かねて、
「お父さん、少しほかの人に話す機会をあげたら?」
と、優しく言いました。でもご主人は人前でそんな言葉をおばあちゃんが言うとは期待していなかったので、ちょっと傷付いたらしいのです。あの時はおばあちゃんが大切なルールを破りました。今でも反省しています。
8. 恋をして結婚したほとんどの人が、自分の正反対の性格の人に惹かれる傾向がある。
だから結婚を成功させるためには、お互いの性格の違いを尊敬するように努力する事。
(忍耐と尊敬)
不思議なもので、おばあちゃんの周りの夫婦はほとんどみな性格が全く反対で、良くあんなに違う二人が結婚したなと時々感心する事があります。おばあちゃんの場合も同じで、どちらも丑年の割には性格が全く反対で、ご主人はスポーツとなれば何をしても強いし、おばあちゃんは全くダメ。ご主人は仕事以外ではあまり他人と接することが好きではないのに対して、おばあちゃんはとても社交的。 そして彼は感情をすぐ面に表し、おばあちゃんはどちらかというと何があっても、どーんと構えています。
そんなに性格の違いが有る2人は、初めはどうして相手があんな行動をするのかと疑問ばかり持っていました。でもお互いに相手の行動を理解するようになってからは、それが逆にお互いを助けているのだと考える様になりました。おばあちゃんによると、恋に落ちたという事は、自分には無い、でも相手にある何かに惹かれたという事。ですから、徐々にお互いを知る努力をすれば、相手を心から理解できることも可能だとおばあちゃんは思っています。
二人の性格が全く違っていた事で良い結果が生まれた例が一つ有ります。おばあちゃんが何かを決断する時は、大抵その時の感情に従って物事を決めることが多いのですが、それとは全く反対に、ご主人は何ごとも論理に従って決めるタイプです。随分前に、おばあちゃんが新しい会社に行くか、それとも今迄の会社に残るか迷っていた時が在るのですが、彼女は17年も働いていた会社がとても居心地が良いので、新しい会社に行くことを拒んでいました。でもご主人はその選択が正しい判断ではないのではと彼女に問いました。彼は、両方の選択肢の長所と短所を紙に書いて、それを慎重に分析してから決断することをおばあちゃんに勧めました。おばあちゃんは彼の言った通りに従ってどちらかを選び、最終的には新しい会社に行く事を決めました。会社を変えたことで初めは残業が多く、その上仕事の手順を一から習わなくてはならず一時は間違った決断をしてしまったかの様に見えました。でも何年かたった後に、その決断が正しかったことに気が付いたのです。何故かというと、新しい会社で働くことがその後のおばあちゃん達の経済的な立場をもっと明るくしてくれたからです。あの時、ご主人の論理的な考え方に耳を貸さなかったら、定年後の今の裕福な生活は到底できなかっただろうとおばあちゃんは思っています。
9. 大きな決断、特に金銭的な決断は、同意を得てからすること。
若し同意できなければその決断を諦めること。(忍耐)
おばあちゃん達は大きな決断をするときは必ず話し合い、同意をしてからするようにしています。特にお金に関することでは。ある程度の金額以上超えたものを購入するときは、お互いに話し合い、同意してからする様に心掛けています。 ですから金銭面で喧嘩をしたことはほとんど有りません。そういうルールを結婚した時から決めていました。という事は、自分の思うままに行動ができないという事ですから、我慢することが求められます。
おばあちゃん達の経験から一つの例を挙げれば、2001年に新しい家を探していた時の事かな? カナダでは、家の引っ越しはとても頻繁で、おばあちゃん達も家族の必要に応じて3度目の家を探していました。おばあちゃん達もそれぞれ気に入った家を見つけたのですが、お互いに相手の選択した家には同意できませんでした。普段はどちらかが折れるのですがこの時ばかりはそんなことも無く、最終的にはその年は家の購入は諦めました。でもそれで良かったのです。息子がその2年後に新しい家に引っ越し、2人目の子供ができるから、なるたけそばに引っ越して欲しいと言ってきました。そして息子の家の近くで物件を探したところ、4軒先離れたところに、家を建築する予定のある空き地を見つけました。 そしてそこに新しい家を建て、一年後におばあちゃん達は引越ししました。お互いが同意して購入した家は18年たった今でも、二人ともとても気に入っています。
10. 恋をしていた頃の情熱は年を取るにつれ冷めてくるもの。ですから結婚している間に
お互いに尊敬できる存在になること。そしてできる事なら、初めから尊敬できる人と
結婚すること。(尊敬)
恋に落ちた頃の情熱は、残念ながら年を取るにつれて薄れてきます。そして長い間寄り添って生活してきた夫婦のお互いの愛情は、空気みたいに、段々見えなくなってきます。そして相手が傍にいてもその存在に感謝することも無く生活することが多くなるのです。でもある時、急に相手が居なくなると、まるで空気が無くなって呼吸もできなくなる程、とても辛い思いをするものです。
ですから、結婚生活をしている間に、たとえ情熱が消えてもお互いが尊敬できる存在になることが大切だとおばあちゃんは思っています。
おばあちゃん達の場合は、先ずご主人が大学を終え、そしておばあちゃん自身も大学を卒業し、その後も努力しているのを見続けることで、気が付かないうちにお互いを尊敬し始めていました。ですから年を取ってきて、若い頃に感じた情熱が覚め始めてきても、相手を人間として魅力のある人だと思い、お互いにとても尊敬しています。
良く考えてみると、結婚した相手はこの世で一番大切な人なのです。そんな大切なことを忘れがちな私達の人生はとても悲しいものです。そしておばあちゃんの知人の中には、他人にはとても良く対応するけれど、自分の家族をないがしろにする人も結構いるのだとか。おばあちゃんにはそれが信じられません。家族が一番大切ならその一人一人に愛情を注ぐのが当たり前なのではとおばあちゃんは思っています。
続ききは第二部でご覧ください。